3月中旬。用意した全ての書類をそろえて、労働局へと出向いた。その日は、朝から緊張のしすぎでお腹が痛かった。朝一番に行ったにも関わらず、すでにたくさんの人が待っていて、呼ばれるまでにかなりの時間がかかりそうだった。出勤時間が過ぎて焦り始めた私に、同僚から携帯メッセージが届いた。「ゆっくり時間をとっていいからね」・・・そっと応援してくれる同僚たちの気持ちがうれしかった。
いよいよ私の順番が来た。マダムが書類ひとつひとつにざっと目を通す。ここで審査するわけではなく、あくまでもここでは受付のみだと分かっていても、心臓のバクバクが止まらない。「欠けている書類はないのだけれど、ひとつアドバイスしておくとね・・・」、会社側が用意する書類のひとつについて、マダムが親切に教えてくれたことがあった。会社側は「この人材を雇用したい理由」の手紙を用意しないといけないのだけれど、どこまで詳しく書けばいいのかなど分かっておらず、とても簡潔に書いていたのだ。マダムによると、もっと詳しく書かないといけないとのことだった。
「書類一式は預かっておくわ。でも、会社にお願いして、この書類をもう少し詳しく書いたものを用意してもらうといいわ。これじゃ、ダメだから。FAX番号と担当者の名前をメモしておくから、出来次第、ここにFAXしてちょうだいね」
フランスのお役所の人は意地悪だ、なんてよく聞くけれど、そうとも限らない。ちゃんと心ある人もたくさんいるのだ。
最後に、恐る恐る聞いてみた。
「申請したからと言って、全員に許可がおりるわけではないんですよね」
「そうね、そうとも限らないわね。今は特に厳しいわ。・・・職種は何かしら」
チラッと書類の職種欄を見て、マダムは言った。
「うーん、これは簡単じゃないわね」
「やっぱり難しいですか」
分かってはいたけれど現実を改めて知らされて、頭がくらっとした。
「でも可能性はゼロではないから。Bonne chance!(成功を祈ります)」
わずかの可能性しかない、でも、可能性はゼロじゃない!自分で自分にそう言い聞かせて、急ぎ足で職場へ向かった。
(注)2006年の時点での話なので、労働許可証申請方法が現在とは違う可能性もあります。ご了承ください。
いよいよ私の順番が来た。マダムが書類ひとつひとつにざっと目を通す。ここで審査するわけではなく、あくまでもここでは受付のみだと分かっていても、心臓のバクバクが止まらない。「欠けている書類はないのだけれど、ひとつアドバイスしておくとね・・・」、会社側が用意する書類のひとつについて、マダムが親切に教えてくれたことがあった。会社側は「この人材を雇用したい理由」の手紙を用意しないといけないのだけれど、どこまで詳しく書けばいいのかなど分かっておらず、とても簡潔に書いていたのだ。マダムによると、もっと詳しく書かないといけないとのことだった。
「書類一式は預かっておくわ。でも、会社にお願いして、この書類をもう少し詳しく書いたものを用意してもらうといいわ。これじゃ、ダメだから。FAX番号と担当者の名前をメモしておくから、出来次第、ここにFAXしてちょうだいね」
フランスのお役所の人は意地悪だ、なんてよく聞くけれど、そうとも限らない。ちゃんと心ある人もたくさんいるのだ。
最後に、恐る恐る聞いてみた。
「申請したからと言って、全員に許可がおりるわけではないんですよね」
「そうね、そうとも限らないわね。今は特に厳しいわ。・・・職種は何かしら」
チラッと書類の職種欄を見て、マダムは言った。
「うーん、これは簡単じゃないわね」
「やっぱり難しいですか」
分かってはいたけれど現実を改めて知らされて、頭がくらっとした。
「でも可能性はゼロではないから。Bonne chance!(成功を祈ります)」
わずかの可能性しかない、でも、可能性はゼロじゃない!自分で自分にそう言い聞かせて、急ぎ足で職場へ向かった。
(注)2006年の時点での話なので、労働許可証申請方法が現在とは違う可能性もあります。ご了承ください。
労働許可証の申請に快くオッケーを出してくれた会社には、本当に感謝だ。もちろん申請してみたところでうまくいくかどうかなんて分からないけれど、そのチャンスを与えてもらえただけでも、私にとっては大きな前進だった。
まずは労働局のインターネットサイトなどで情報収集するところから始めた。私は、なるべく会社に負担のかからないように、動けるところは自分で動こうと努力した。サイトだけでは分からない部分は、労働局に直接出向いて話を聞きに行ったり(長〜い待ち時間はいつものこと)、はたまた電話をかけてみたり(回線が混み合っていて保留状態で待たされること多々)・・・。待ち時間の長さには閉口したが、意外と(笑)担当の人たちは親切で、こちらの質問にもきちんと丁寧に答えてくれた。
厚みのある申請書類一式を片手に本社へ向かい、実際に手続きのために動いてくれる人たちとの話し合いもあった。何しろ会社側も私も初めてのこと、右も左も分からない!(苦笑)それでも、会社側はいやな顔ひとつせずに動いてくれた。本当にありがたかった。
ワーキングホリデービザは、期限が切れると一旦必ず帰国しなければいけないことになっている。「学生ビザから(会社員への)身分変更」であれば、フランスにいながらにして申請の結果待ちが出来るし、一旦帰国する必要もない。でもワーキングホリデービザの場合は、法律上、いながらにして労働許可証の申請ができない(「Introduction:招き入れ」という方法をとらなければいけない)ので、結果待ちは日本で・・・ということになるのだ。
労働局で確認した結果、私のワーキングホリデービザが切れるのは5月末なので、結果待ちに最低3ヶ月かかるとして、3月中旬には書類を提出しても差し支えないとのことだった。そうすれば、結果の出るときには日本にいることになるからだ。ただし、私がまだフランスにいるうちから書類を提出するのであれば、「必ず帰国する」という証明のために、帰国便の航空チケットのコピーも提出してほしいといわれた。あら、意外とそういうところはきっちり確認するのね(笑)。もちろん、私はきちんと帰国する予定だったので、堂々と「ウィ、航空券のコピーも用意します!」と答えた。
まずは労働局のインターネットサイトなどで情報収集するところから始めた。私は、なるべく会社に負担のかからないように、動けるところは自分で動こうと努力した。サイトだけでは分からない部分は、労働局に直接出向いて話を聞きに行ったり(長〜い待ち時間はいつものこと)、はたまた電話をかけてみたり(回線が混み合っていて保留状態で待たされること多々)・・・。待ち時間の長さには閉口したが、意外と(笑)担当の人たちは親切で、こちらの質問にもきちんと丁寧に答えてくれた。
厚みのある申請書類一式を片手に本社へ向かい、実際に手続きのために動いてくれる人たちとの話し合いもあった。何しろ会社側も私も初めてのこと、右も左も分からない!(苦笑)それでも、会社側はいやな顔ひとつせずに動いてくれた。本当にありがたかった。
ワーキングホリデービザは、期限が切れると一旦必ず帰国しなければいけないことになっている。「学生ビザから(会社員への)身分変更」であれば、フランスにいながらにして申請の結果待ちが出来るし、一旦帰国する必要もない。でもワーキングホリデービザの場合は、法律上、いながらにして労働許可証の申請ができない(「Introduction:招き入れ」という方法をとらなければいけない)ので、結果待ちは日本で・・・ということになるのだ。
労働局で確認した結果、私のワーキングホリデービザが切れるのは5月末なので、結果待ちに最低3ヶ月かかるとして、3月中旬には書類を提出しても差し支えないとのことだった。そうすれば、結果の出るときには日本にいることになるからだ。ただし、私がまだフランスにいるうちから書類を提出するのであれば、「必ず帰国する」という証明のために、帰国便の航空チケットのコピーも提出してほしいといわれた。あら、意外とそういうところはきっちり確認するのね(笑)。もちろん、私はきちんと帰国する予定だったので、堂々と「ウィ、航空券のコピーも用意します!」と答えた。
ワーキングホリデーでパリに来たときから、すでに私の中でのカウントダウンは始まっていた。一年限定のビザ、長いようで短い。「あと11ヶ月しかない!」「あと10ヶ月しかない!」・・・友人や同僚たちは、そんな私を見て「気が早すぎる」とよく笑っていたものだった。確かにそうだ、一般的に見て、カウントダウンをするには早すぎる(笑)。でも、私の中で、この一年間が「本当に特別なもの」であったからこそ、なのだ。
折り返し地点に来たころから、周りによく聞かれるようになった。
「あと半年でビザが切れるけど、どうするの?」
あら、いつもギリギリのフランス人にしては、けっこう気が早いじゃない!と笑えた。
ちょうど、パリでの生活ベースがしっかりしてきたころだったので、私自身も半年後のことを考え始めていたころだった。日本に戻るか、それとも、もうちょっとこっちで頑張りたいのか。・・・答えはすぐに出た。もうちょっと、こっちで頑張りたい。いや、考えるまでもなくそれは分かっていた。自分の気持ちははっきりしていたけれど、ビザの問題が絡んで複雑であることは十分承知だったので、そのことを思うと少しブルーになったりもした。
「みんなとこれからも働き続けたいけど、労働許可証がないと、働けないからね。ワーキングホリデービザは一年間だけで、延長もできない、改めて取得もできない、一生に一度だけのものだから」
「どうしたら労働許可証はもらえるの?」
「会社が申請しないといけないけど、会社側も手続きが大変だから、オッケー出してくれるところはほとんどないって聞いたよ」
「社長に頼んでみればいいじゃない、オッケー出してくれるよ!早く動き出さないと!」
「うーん・・・でも厚かましいお願いだから・・・(ため息)」
「そんなことない!とりあえず、早く話してみなよ。あと半年もないんだよ」
「うん、分かった」
そうは言ったものの、なかなか動き出す勇気が出ないでいた。労働許可証を申請するのには、会社側に時間も労力もお金もかけてもらわないといけないことはよく分かっていたし、たとえ会社の同意がもらえて申請したからと言って、その申請が通るかどうかは分からない。しかもこのときは、ちょうどフランス政府の移民対策が強化されて本格的に動き始めたころだったので、状況がますます厳しくなっていることは明らかだった。だから、社長にこの話を切り出すのが怖かったのだ。「ノン」と言われるのが怖かったのだ。
ある日、社長がブティックに来たときに、店長が私に耳打ちした。
「ちはる、今から社長とお話しなさい。もう私たちのほうからはビザのことをお願いしてあるから、彼も、ちはるの気持ちを直接聞けることを待っていると思うわよ」
びっくりした。なかなか話を切り出せないでいた私を見かねて、同僚たちが社長にお願いしてくれていたのだ。
あまりにも急だったので心の準備は出来ていなかったが、話を切り出すこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。私のほうへ笑顔を向ける同僚たちに小声でお礼をいい、そのまま社長のほうへ向かっていった。
「お話したいことがあるのですが、少しお時間よろしいですか」
私は、緊張のあまり、顔が赤くなったのを覚えている。できればワーキングホリデービザ終了後もここでみんなと働き続けたいという気持ちを伝えると、社長はすぐに言った。
「オッケーだ。彼女たちからもその話は聞いたよ。何をどうしたらいいのか、まず調べないとね。こっちも始めてのことだし、何も分かってないから」
とてもとても嬉しかった。まさかオッケーがもらえるなんて思ってもいなかったから。
そして、それからすぐに、手続きに向けて動き始めることになった。
折り返し地点に来たころから、周りによく聞かれるようになった。
「あと半年でビザが切れるけど、どうするの?」
あら、いつもギリギリのフランス人にしては、けっこう気が早いじゃない!と笑えた。
ちょうど、パリでの生活ベースがしっかりしてきたころだったので、私自身も半年後のことを考え始めていたころだった。日本に戻るか、それとも、もうちょっとこっちで頑張りたいのか。・・・答えはすぐに出た。もうちょっと、こっちで頑張りたい。いや、考えるまでもなくそれは分かっていた。自分の気持ちははっきりしていたけれど、ビザの問題が絡んで複雑であることは十分承知だったので、そのことを思うと少しブルーになったりもした。
「みんなとこれからも働き続けたいけど、労働許可証がないと、働けないからね。ワーキングホリデービザは一年間だけで、延長もできない、改めて取得もできない、一生に一度だけのものだから」
「どうしたら労働許可証はもらえるの?」
「会社が申請しないといけないけど、会社側も手続きが大変だから、オッケー出してくれるところはほとんどないって聞いたよ」
「社長に頼んでみればいいじゃない、オッケー出してくれるよ!早く動き出さないと!」
「うーん・・・でも厚かましいお願いだから・・・(ため息)」
「そんなことない!とりあえず、早く話してみなよ。あと半年もないんだよ」
「うん、分かった」
そうは言ったものの、なかなか動き出す勇気が出ないでいた。労働許可証を申請するのには、会社側に時間も労力もお金もかけてもらわないといけないことはよく分かっていたし、たとえ会社の同意がもらえて申請したからと言って、その申請が通るかどうかは分からない。しかもこのときは、ちょうどフランス政府の移民対策が強化されて本格的に動き始めたころだったので、状況がますます厳しくなっていることは明らかだった。だから、社長にこの話を切り出すのが怖かったのだ。「ノン」と言われるのが怖かったのだ。
ある日、社長がブティックに来たときに、店長が私に耳打ちした。
「ちはる、今から社長とお話しなさい。もう私たちのほうからはビザのことをお願いしてあるから、彼も、ちはるの気持ちを直接聞けることを待っていると思うわよ」
びっくりした。なかなか話を切り出せないでいた私を見かねて、同僚たちが社長にお願いしてくれていたのだ。
あまりにも急だったので心の準備は出来ていなかったが、話を切り出すこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。私のほうへ笑顔を向ける同僚たちに小声でお礼をいい、そのまま社長のほうへ向かっていった。
「お話したいことがあるのですが、少しお時間よろしいですか」
私は、緊張のあまり、顔が赤くなったのを覚えている。できればワーキングホリデービザ終了後もここでみんなと働き続けたいという気持ちを伝えると、社長はすぐに言った。
「オッケーだ。彼女たちからもその話は聞いたよ。何をどうしたらいいのか、まず調べないとね。こっちも始めてのことだし、何も分かってないから」
とてもとても嬉しかった。まさかオッケーがもらえるなんて思ってもいなかったから。
そして、それからすぐに、手続きに向けて動き始めることになった。
私がこの仕事を選んだのは、フランスにいながらにして、「日本とも関わっていける」というのも大きな理由。どうせフランスで生活するならフランス人に囲まれて仕事をしてみたい、とは思っていたが、生まれ育った日本ともどこかで関わっていたかった。(欲張り?笑)
そんなわけで、私は、日本人のお客さんが来ると、妙にうれしくなるのだった。私が日本人だと分かると、「うわぁ!日本人とお話できると、落ち着きます!フランス語はできないし、必死になって英語で話してみても、フランス人はあまり理解してくれないし・・・」と喜んでくれる人もたくさんいて、思わずにっこり。
中でも、ひとり旅の人は特に「ちょっと心細かったので、ホッとしました!」と、安堵感を浮かべる人が多かった。私もひとり旅の経験がけっこうあるので、その気持ちはよく分かる。自由気ままに旅できるのはいいけれど、その反面、異国の地にひとりでいると、孤独を感じることもしばしばあるからだ。そんなときに出会う日本人とのふれあいは、なんと安心感を与えてくれることか!
一度、おもしろいことがあった。ブティック内にはちょうど日本人のお客さんも何人かいるときだった。あるお客さんが、商品に関する質問をしてきたあとにふと私に言った。「初めてのひとり旅なんです。誰かと話したかったんで、日本人の店員さんがここにいてくれてよかったです、ホッとしました!」
「そう言っていただけると私も嬉しいです(笑)。最近、ひとり旅の女性、多いんですよね。そういえば、あちらのお客様もひとり旅だとおっしゃっていました」
そういって、そちらのお客さんのほうへ視線を促すと、会話が聞えたのか、さきほど私が接客していたその女性は笑顔でこちらにやってきた。
「初めまして、こんにちは。お一人なんですか?私もなんです!」
「そうなんですよー。どれくらいパリには滞在されるんですか?」
ひとり旅の女性同士(年齢も同じくらい?)、会話が始まった。そして、意気投合した二人は、夕食を一緒に食べる約束をしたらしい。私が別のお客さんの接客を終えるのを待って、その後、私のほうへ近づいてきてこう言った。
「もしよかったら、私たちとご一緒に、夕食いかがですか?」
まさかそんな素敵なお誘いがくるなんて!
残念ながら、私はその日はすでに予定が入っていたためお断りしたが、「ここに来てよかったです!満足のいく買い物もできたし、いろいろお話もできたし、こんなひとり旅同士の出会いもあったし!」とお二人が楽しそうにブティックを後にする姿を見て、とてもとてもうれしくなった。その日の夕食は、きっと、お互いの旅の話で盛り上がったに違いない。もしかしたら、滞在中に、お二人は観光も一緒にしたかもしれないな、なんて想像して、こちらまで楽しい気分になったものだった。
そんなわけで、私は、日本人のお客さんが来ると、妙にうれしくなるのだった。私が日本人だと分かると、「うわぁ!日本人とお話できると、落ち着きます!フランス語はできないし、必死になって英語で話してみても、フランス人はあまり理解してくれないし・・・」と喜んでくれる人もたくさんいて、思わずにっこり。
中でも、ひとり旅の人は特に「ちょっと心細かったので、ホッとしました!」と、安堵感を浮かべる人が多かった。私もひとり旅の経験がけっこうあるので、その気持ちはよく分かる。自由気ままに旅できるのはいいけれど、その反面、異国の地にひとりでいると、孤独を感じることもしばしばあるからだ。そんなときに出会う日本人とのふれあいは、なんと安心感を与えてくれることか!
一度、おもしろいことがあった。ブティック内にはちょうど日本人のお客さんも何人かいるときだった。あるお客さんが、商品に関する質問をしてきたあとにふと私に言った。「初めてのひとり旅なんです。誰かと話したかったんで、日本人の店員さんがここにいてくれてよかったです、ホッとしました!」
「そう言っていただけると私も嬉しいです(笑)。最近、ひとり旅の女性、多いんですよね。そういえば、あちらのお客様もひとり旅だとおっしゃっていました」
そういって、そちらのお客さんのほうへ視線を促すと、会話が聞えたのか、さきほど私が接客していたその女性は笑顔でこちらにやってきた。
「初めまして、こんにちは。お一人なんですか?私もなんです!」
「そうなんですよー。どれくらいパリには滞在されるんですか?」
ひとり旅の女性同士(年齢も同じくらい?)、会話が始まった。そして、意気投合した二人は、夕食を一緒に食べる約束をしたらしい。私が別のお客さんの接客を終えるのを待って、その後、私のほうへ近づいてきてこう言った。
「もしよかったら、私たちとご一緒に、夕食いかがですか?」
まさかそんな素敵なお誘いがくるなんて!
残念ながら、私はその日はすでに予定が入っていたためお断りしたが、「ここに来てよかったです!満足のいく買い物もできたし、いろいろお話もできたし、こんなひとり旅同士の出会いもあったし!」とお二人が楽しそうにブティックを後にする姿を見て、とてもとてもうれしくなった。その日の夕食は、きっと、お互いの旅の話で盛り上がったに違いない。もしかしたら、滞在中に、お二人は観光も一緒にしたかもしれないな、なんて想像して、こちらまで楽しい気分になったものだった。
フランスでは、試用期間中に解雇される場合がなきにしもあらず・・・いや、あまり珍しくない、と聞いていたので、正直いって不安がだった。勤務態度の真面目さには自信があったが(笑)、フランス人の中で仕事をするには、外国人の私では力不足なのではないかと心配だった。この期間は、雇用主は明確な理由を提示せずに解雇することができるし、雇われているほうも、理由を提示せずに自由に辞めることができる。通常、試用期間は一般職で1ヶ月、管理職で3ヶ月となっている。
やれやれ、無事にその試用期間を終え、ほっと胸をなで下ろしたのもつかの間、私は失敗をしてしまったのだ。寝過ごして、大遅刻!
ここでひとこと付け加えておくと、試用期間中は真面目を装い、試用期間後に本性を現わした・・・ということではないので、あしからず(笑)。
それは、働いて数ヶ月が経ち、生活のリズムもつかめてきたころだった。緊張の糸がプツンと切れて、いままでの疲れが急にドッと出たのかもしれない。寝る前に目覚まし時計をセットしたことまではしっかり覚えていたのだが、どうやら朝に目覚まし時計が鳴ったとき、無意識に止めていたらしい。目が覚めてぼんやりと時計を見ると、漫画の世界のように、ゴシゴシと目をこすりたくなるような、信じたくない時間が目に飛びこんできた。ああ、神様、夢であって欲しい!
しっかり目を覚まして、もう一度時計に目をやってみても・・・ああ、やっぱり。仕事開始の時間をすでに大幅に過ぎていたのだ。とにかく、お詫びの電話をしなくちゃ!
「ブティック○○、ボンジュ〜ル」
「ちはるです!」
あぁ、情けない寝起きの声。
「ああっ、ちはる、心配してたのよ、ちょうど電話しようと思ってたの。どうしたの?メトロが動いてないの?」
「違うんです。寝坊しました。いま起きたんです!本当にすみません」
「あぁ、そうだったのね。心配しないで。いまから来てくれたらいいから」
「本当にすみません!!今すぐ準備して、向かいます!!」
駆け足で職場に到着すると、責任者や同僚たちは、温かく迎えてくれた。申し訳なくて、昼休みを返上で働くと申し出る私に、こう言ってくれたのだった。
「お昼ごはんはしっかり食べないと、パワーが出ないわよ。いつも、時間よりちゃんと早く到着しているし、真面目に仕事もしていることはみんな分かっているから大丈夫。きっと疲れがたまってたのよ、誰にだってそんなこともあるわ。さっ、気にしない、気にしない!」
日本での社会人時代を思い返してみると、私を含めて、そんな大遅刻をする人は皆無だった。万が一こんな大きな遅刻をした場合、まさか笑顔で迎えてくれるようなことはないだろう。神妙な顔つきで、「これからはそんなことのないように」と注意を受け、その日一日、肩身の狭い思いをして過ごすであろう。
その反面、日本人と比べると、フランス人は時間にルーズ。そうはいっても、仕事となると、一時間以上の大遅刻をする人は、珍しい(私の周りを見る限り)。でも、この大らかな対応ぶりを見るかぎり、彼らにとっての遅刻は、日本人が遅刻に対して抱いている罪悪感ほど大きなものではない、と気づいた。
だからといって、これに甘んじてはいけないだけど(笑)。
やれやれ、無事にその試用期間を終え、ほっと胸をなで下ろしたのもつかの間、私は失敗をしてしまったのだ。寝過ごして、大遅刻!
ここでひとこと付け加えておくと、試用期間中は真面目を装い、試用期間後に本性を現わした・・・ということではないので、あしからず(笑)。
それは、働いて数ヶ月が経ち、生活のリズムもつかめてきたころだった。緊張の糸がプツンと切れて、いままでの疲れが急にドッと出たのかもしれない。寝る前に目覚まし時計をセットしたことまではしっかり覚えていたのだが、どうやら朝に目覚まし時計が鳴ったとき、無意識に止めていたらしい。目が覚めてぼんやりと時計を見ると、漫画の世界のように、ゴシゴシと目をこすりたくなるような、信じたくない時間が目に飛びこんできた。ああ、神様、夢であって欲しい!
しっかり目を覚まして、もう一度時計に目をやってみても・・・ああ、やっぱり。仕事開始の時間をすでに大幅に過ぎていたのだ。とにかく、お詫びの電話をしなくちゃ!
「ブティック○○、ボンジュ〜ル」
「ちはるです!」
あぁ、情けない寝起きの声。
「ああっ、ちはる、心配してたのよ、ちょうど電話しようと思ってたの。どうしたの?メトロが動いてないの?」
「違うんです。寝坊しました。いま起きたんです!本当にすみません」
「あぁ、そうだったのね。心配しないで。いまから来てくれたらいいから」
「本当にすみません!!今すぐ準備して、向かいます!!」
駆け足で職場に到着すると、責任者や同僚たちは、温かく迎えてくれた。申し訳なくて、昼休みを返上で働くと申し出る私に、こう言ってくれたのだった。
「お昼ごはんはしっかり食べないと、パワーが出ないわよ。いつも、時間よりちゃんと早く到着しているし、真面目に仕事もしていることはみんな分かっているから大丈夫。きっと疲れがたまってたのよ、誰にだってそんなこともあるわ。さっ、気にしない、気にしない!」
日本での社会人時代を思い返してみると、私を含めて、そんな大遅刻をする人は皆無だった。万が一こんな大きな遅刻をした場合、まさか笑顔で迎えてくれるようなことはないだろう。神妙な顔つきで、「これからはそんなことのないように」と注意を受け、その日一日、肩身の狭い思いをして過ごすであろう。
その反面、日本人と比べると、フランス人は時間にルーズ。そうはいっても、仕事となると、一時間以上の大遅刻をする人は、珍しい(私の周りを見る限り)。でも、この大らかな対応ぶりを見るかぎり、彼らにとっての遅刻は、日本人が遅刻に対して抱いている罪悪感ほど大きなものではない、と気づいた。
だからといって、これに甘んじてはいけないだけど(笑)。




