小さなころから海外に興味を持っていた私は、まだインターネットが発達していなかった時代、いろんな国の人たちと文通(懐かしい言葉!)をしていた。そんな私にとって、世界中のお客さんと会話できることは素直に嬉しく、フランス人の同僚たちとの関係も良好で、毎日仕事に行くのが楽しみだった。
フランス人のお客さんとはフランス語、日本人のお客さんとは日本語、英語圏やその他の国のお客さんとは英語。そしてイタリア人とは・・・、相手は私にイタリア語で話しかけ、私はフランス語で答える、なんてことも(笑)。同じラテン語だからか、イタリア語やスペイン語は、一生懸命聞いてみるとお互いに理解できたりする。近くで聞いていると、とても不思議な光景かもしれない。お客さんと店員が違う言語で話していて、会話になっていないようで、会話になっているのだから(笑)。伝えようとする気持ち、聞こうとする気持ち、これさえあれば、なんとかなるものなのだ!?
また、特にイタリア人やスペイン人にはフランス語を習ったことのある人も多く、巻き舌でフランス語を話してくれることがある。もちろん、英語圏のお客さんでも、こういう人がたくさんいる。うーん、うーん、と単語を探しながら必死に話してくれる姿が、たまらなくかわいいのだ。
「ストラップ(バッグの持ち手)って、フランス語でなんていうの?」
「anseとかpoignéeです。」
「男性名詞?女性名詞?」
「どちらも女性名詞ですよ。」
「ありがとう、フランス語の先生!(笑)」
「どういたしまして!(笑)」
私の母国語はフランス語ではないことは分かっているだろうに、こうやって聞いてくるお客さんも珍しくない。ブティックの中でこっそり繰り広げられる、お客さんへの小さなフランス語レッスン。なかなか和やかな雰囲気でしょう?
フランス人のお客さんとはフランス語、日本人のお客さんとは日本語、英語圏やその他の国のお客さんとは英語。そしてイタリア人とは・・・、相手は私にイタリア語で話しかけ、私はフランス語で答える、なんてことも(笑)。同じラテン語だからか、イタリア語やスペイン語は、一生懸命聞いてみるとお互いに理解できたりする。近くで聞いていると、とても不思議な光景かもしれない。お客さんと店員が違う言語で話していて、会話になっていないようで、会話になっているのだから(笑)。伝えようとする気持ち、聞こうとする気持ち、これさえあれば、なんとかなるものなのだ!?
また、特にイタリア人やスペイン人にはフランス語を習ったことのある人も多く、巻き舌でフランス語を話してくれることがある。もちろん、英語圏のお客さんでも、こういう人がたくさんいる。うーん、うーん、と単語を探しながら必死に話してくれる姿が、たまらなくかわいいのだ。
「ストラップ(バッグの持ち手)って、フランス語でなんていうの?」
「anseとかpoignéeです。」
「男性名詞?女性名詞?」
「どちらも女性名詞ですよ。」
「ありがとう、フランス語の先生!(笑)」
「どういたしまして!(笑)」
私の母国語はフランス語ではないことは分かっているだろうに、こうやって聞いてくるお客さんも珍しくない。ブティックの中でこっそり繰り広げられる、お客さんへの小さなフランス語レッスン。なかなか和やかな雰囲気でしょう?
はじめて接客したお客さんが笑顔で帰って行ったとき、なんともいえない嬉しさがこみ上げてきた。まだ知識も十分ではないし、言葉の壁もある・・・そんな外国人である私の接客に、きちんと向かい合ってくれたマダムに感動した。その日、そのマダム以外にもフランス人の対応をすることがあったのだけれど、やはり、そのたびに感動するのだった。「フランス語でふつうに話しかけてくれる」・・・ただそれだけのことに、いちいち喜んでいた。
実は、日本にいるとき、あるお店で隣のカップルがこんな会話をしているのを聞いたことがある。
「店員さんに聞いてみようよ。」
「でも、あの人は外国人だしあまり分からなさそうだから、あっちの人に聞こう!」
一番近くにいて、手のあいていた外国人の店員を避けたのだ。
全員が全員、そういう考えだなんて思ってはいない。でも、自分の中では勝手に、私もフランスではそういう風に見られるのではないかと思っていたのだ。ところが、そんな考えは間違いだったのだ。間違いであったことに、感謝したい!
お客さんが、ふつうのスピードで話しかけてくれることも嬉しかった。まるで、子どもが大人と同じ扱いをされて喜んでいるレベルのことだから、他人からしたらどうってことないことなのかもしれない。でも、少しだけフランス社会に入りこめた気がして、興奮した。入りこめたなんて、気のせいかもしれないけれど(笑)。とはいえ、やはりスピードについていけないときがあったり、分からない単語も出てきたりするわけで。そんなときには、お客さんは、いやな顔ひとつせず、少しゆっくり繰り返してくれたり、他の単語で言い換えたり、どんなものなのかを分かりやすく説明してくれたりするのだった。
「お客さん運」なんてものがあるとしたら、かなり恵まれていたのではないかと思う。
実は、日本にいるとき、あるお店で隣のカップルがこんな会話をしているのを聞いたことがある。
「店員さんに聞いてみようよ。」
「でも、あの人は外国人だしあまり分からなさそうだから、あっちの人に聞こう!」
一番近くにいて、手のあいていた外国人の店員を避けたのだ。
全員が全員、そういう考えだなんて思ってはいない。でも、自分の中では勝手に、私もフランスではそういう風に見られるのではないかと思っていたのだ。ところが、そんな考えは間違いだったのだ。間違いであったことに、感謝したい!
お客さんが、ふつうのスピードで話しかけてくれることも嬉しかった。まるで、子どもが大人と同じ扱いをされて喜んでいるレベルのことだから、他人からしたらどうってことないことなのかもしれない。でも、少しだけフランス社会に入りこめた気がして、興奮した。入りこめたなんて、気のせいかもしれないけれど(笑)。とはいえ、やはりスピードについていけないときがあったり、分からない単語も出てきたりするわけで。そんなときには、お客さんは、いやな顔ひとつせず、少しゆっくり繰り返してくれたり、他の単語で言い換えたり、どんなものなのかを分かりやすく説明してくれたりするのだった。
「お客さん運」なんてものがあるとしたら、かなり恵まれていたのではないかと思う。
「すみません、店員さんですか?」
「はい、そうです。お伺いいたします。」
笑顔でそう答えてみたものの、私の鼓動は急に激しくなった。「今日から働き始めた新人なんです」と心の中で言ってみたところで、相手に伝わるはずもなく。実は、どこからどう見ても外国人の私に、フランス人のお客さんは言葉の不安を感じて、簡単に話しかけてこないだろう、と高をくくっていたのだ。予想外の不意打ちに、焦りは大きい。でも、なんとかするしかない。
「以前、一度友達が持っているのを見かけたのだけれど、旅行バッグで、スーツケース型のものはあるかしら。色は、黒か茶がいいわ。いや、でも、やっぱり他の色も見せてくれますか?」
「はい、ございます。スーツケース型の旅行バッグですね。」
さいわい、マダムの言っていることは理解できたし、希望に沿う商品があることも分かった。ただ、その商品の展示してある場所が思い出せない。マダムの希望を復唱しながら、さりげなく店内を見渡して見つけようと思ったが・・・えっと、えっと、どこだっけ。困った私が、ヘルプ!という表情で近くにいた同僚を見ると、待ってましたとばかりにウィンクして、ある方向を指さしてくれた。・・・あった!
「マダム、こちらへどうぞ。・・・こちらに全ての色が揃っています。」
マダムを案内するために移動すると、同僚も距離をおいたままさりげなくついてくる。どうやら、いざというときにはいつでも助け舟を出してくれるつもりらしい。つかず離れずところで見守ってくれているということに、どれだけの安心感を覚えたことか!
いきなり初日にひとりで立たされたことに、日本との違いを感じ、戸惑っていたが、このときに.突然感じた:大丈夫、やっていける!
覚えたばかりの知識で、なんとか質問に答え、商品の説明をした。マダムから反応が返ってきたことが嬉しかった。とはいえ、いきなりスムーズにことが運ぶはずがなく、その後の突っ込んだ質問には対応しきれず、近くにいた同僚がすっと対応に入ってくれたのだが(笑)。
「マダム、私が代わりにお答えしますね。実は、彼女は今日から仕事を始めたんです。マダムが一番初めの彼女のお客さんです。」「まぁ、今日から!」
マダムが、優しい笑顔で最後にかけてくれた言葉は今でも覚えている。
「あなたの最初のお客さんになれて嬉しいわ。がんばってね、あなたなら出来るわ。」
こうして、私のフランスでの社会人生活はスタートしたのだった。
「はい、そうです。お伺いいたします。」
笑顔でそう答えてみたものの、私の鼓動は急に激しくなった。「今日から働き始めた新人なんです」と心の中で言ってみたところで、相手に伝わるはずもなく。実は、どこからどう見ても外国人の私に、フランス人のお客さんは言葉の不安を感じて、簡単に話しかけてこないだろう、と高をくくっていたのだ。予想外の不意打ちに、焦りは大きい。でも、なんとかするしかない。
「以前、一度友達が持っているのを見かけたのだけれど、旅行バッグで、スーツケース型のものはあるかしら。色は、黒か茶がいいわ。いや、でも、やっぱり他の色も見せてくれますか?」
「はい、ございます。スーツケース型の旅行バッグですね。」
さいわい、マダムの言っていることは理解できたし、希望に沿う商品があることも分かった。ただ、その商品の展示してある場所が思い出せない。マダムの希望を復唱しながら、さりげなく店内を見渡して見つけようと思ったが・・・えっと、えっと、どこだっけ。困った私が、ヘルプ!という表情で近くにいた同僚を見ると、待ってましたとばかりにウィンクして、ある方向を指さしてくれた。・・・あった!
「マダム、こちらへどうぞ。・・・こちらに全ての色が揃っています。」
マダムを案内するために移動すると、同僚も距離をおいたままさりげなくついてくる。どうやら、いざというときにはいつでも助け舟を出してくれるつもりらしい。つかず離れずところで見守ってくれているということに、どれだけの安心感を覚えたことか!
いきなり初日にひとりで立たされたことに、日本との違いを感じ、戸惑っていたが、このときに.突然感じた:大丈夫、やっていける!
覚えたばかりの知識で、なんとか質問に答え、商品の説明をした。マダムから反応が返ってきたことが嬉しかった。とはいえ、いきなりスムーズにことが運ぶはずがなく、その後の突っ込んだ質問には対応しきれず、近くにいた同僚がすっと対応に入ってくれたのだが(笑)。
「マダム、私が代わりにお答えしますね。実は、彼女は今日から仕事を始めたんです。マダムが一番初めの彼女のお客さんです。」「まぁ、今日から!」
マダムが、優しい笑顔で最後にかけてくれた言葉は今でも覚えている。
「あなたの最初のお客さんになれて嬉しいわ。がんばってね、あなたなら出来るわ。」
こうして、私のフランスでの社会人生活はスタートしたのだった。
1996年の旅行でフランスに恋に落ち、かなりの年月が経ってから留学。すると、さらに欲が出てきて、学生ではなく、社会人として生活してみたくなった。その思いが叶うときが、今日、やってきたのだ。ワーキングホリデービザ、万歳!
職場に戻って、いよいよ仕事開始。日本で社会人も接客にも経験しているとはいえ、何の商品知識もない私に、いきなり満足な接客が出来るわけがない。まずは、商品についてひと通りの説明を受けることになった。バッグ、服、小物などを取り扱うブティックなので、種類もかなり多い。そこにさらに言葉のハンデが加わる。今までの日常会話では使ったことのない単語がどんどん出てくる。フランス語の桁の多い数字が苦手な私にとっては、商品番号もややこしい。しかも、商品をきちんと理解し、説明をフランス語で出来るようにならないといけない。うむむむむ、私はいきなり壁にぶつかるのだった。そんな不安な私の気持ちを察してか、「大丈夫、しばらくしたら自然に覚えられるわよ。私たちでも商品番号や金額がごちゃごちゃになって、今でも確認することもあるわよ。商品の説明も、みんなの言いまわし方を聞いて少しずつ覚えていったらいいわ。」・・・そうか、みんなのフランス語に聞き耳を立てて、ちょっとずつ盗んでいけばいいんだ!その言葉のおかげで、リラックスできた。
まだ十分なレベルの接客ができない私にでも完璧にできることと言えば、「ボンジュー」「メルシー、さようなら」の、お客さんが出入りするときの笑顔でのあいさつくらいだった。せめてこれだけでもしっかりしよう、とはりきって声を出していた。ブティック内に立ち、堂々とあいさつ(「だけ」なんだけれど。笑)する私は、周りから見れば立派な店員だ。お客さんにしてみれば、私が働き始めたばかりだなんて知る由もない。私が外国人だなんてことも関係ない。・・・そう、まだ「超初心者マーク」の私が、いきなりフランス人のマダムに質問をされてしまったのだ。さぁ大変、どうする、ちはる!?
職場に戻って、いよいよ仕事開始。日本で社会人も接客にも経験しているとはいえ、何の商品知識もない私に、いきなり満足な接客が出来るわけがない。まずは、商品についてひと通りの説明を受けることになった。バッグ、服、小物などを取り扱うブティックなので、種類もかなり多い。そこにさらに言葉のハンデが加わる。今までの日常会話では使ったことのない単語がどんどん出てくる。フランス語の桁の多い数字が苦手な私にとっては、商品番号もややこしい。しかも、商品をきちんと理解し、説明をフランス語で出来るようにならないといけない。うむむむむ、私はいきなり壁にぶつかるのだった。そんな不安な私の気持ちを察してか、「大丈夫、しばらくしたら自然に覚えられるわよ。私たちでも商品番号や金額がごちゃごちゃになって、今でも確認することもあるわよ。商品の説明も、みんなの言いまわし方を聞いて少しずつ覚えていったらいいわ。」・・・そうか、みんなのフランス語に聞き耳を立てて、ちょっとずつ盗んでいけばいいんだ!その言葉のおかげで、リラックスできた。
まだ十分なレベルの接客ができない私にでも完璧にできることと言えば、「ボンジュー」「メルシー、さようなら」の、お客さんが出入りするときの笑顔でのあいさつくらいだった。せめてこれだけでもしっかりしよう、とはりきって声を出していた。ブティック内に立ち、堂々とあいさつ(「だけ」なんだけれど。笑)する私は、周りから見れば立派な店員だ。お客さんにしてみれば、私が働き始めたばかりだなんて知る由もない。私が外国人だなんてことも関係ない。・・・そう、まだ「超初心者マーク」の私が、いきなりフランス人のマダムに質問をされてしまったのだ。さぁ大変、どうする、ちはる!?
ふふふ・・・やはり「笑顔」で攻めるのは効果抜群。マダムの機嫌は少しずつよくなってきた。「これ、オッケー」「次、はい、オッケー」と言いながら、フランス人らしいマイペースな動きで、私がそろえてきた書類に順番に目を通していた。どれだけたくさんの人が次に待っていようと、決して焦らないフランス人は多い。ある意味、あっぱれ!だ。必要書類はもれなく揃えていたので、よっぽどのことがない限り手続きは一度で終わるはず。しかし。フランスは何が起こるか分からない国だから、と少し緊張気味の私がいた。担当者によっても、結果が違うこともあるし(苦笑)。
マダムは、書類に目を通し終えると、ペランペランの薄い紙にボールペンで何やら書み始めた。そして、判読するのにひと苦労する筆跡で(失礼!)私の名前や企業名が書き込まれたそれを、私のほうへ差し出した。それは、仮の一時労働許可証だった。本物の一時労働許可証は、2週間ほどで自宅に郵送で届くとのこと。でもそのあとに、マダムはいたずらっ子のように笑って付け加えた。「あっ、でもバカンスシーズンだから、もうちょっと時間がかかるかもしれないわ。人がいないの。1ヶ月ほど見ておいて」。出たっ、バカンス!バカンスシーズンは、フランスの多くの機関の機能がぐんと低下する。仕方がない、これがフランスだ。無事に手続きが完了しただけでもヨシとしよう。(そう思わないと、フランスではやっていけない。)
私は、マダムに笑顔でお礼をいった。「よいバカンスを」と付け加えて。「どういたしまして。よい一日を!」。すっかり機嫌が直っていたマダムは、そう言って私を送り出してくれた。私は、ペランペランの薄い紙に再び目を通し、バッグに大切にしまった。これがあるから、私は今日から働けるんだ。ありがとう、薄い紙!あまりの嬉しさに、スキップしたいくらいの気持ちでみんなが待ってくれている職場へと急いだ。
マダムは、書類に目を通し終えると、ペランペランの薄い紙にボールペンで何やら書み始めた。そして、判読するのにひと苦労する筆跡で(失礼!)私の名前や企業名が書き込まれたそれを、私のほうへ差し出した。それは、仮の一時労働許可証だった。本物の一時労働許可証は、2週間ほどで自宅に郵送で届くとのこと。でもそのあとに、マダムはいたずらっ子のように笑って付け加えた。「あっ、でもバカンスシーズンだから、もうちょっと時間がかかるかもしれないわ。人がいないの。1ヶ月ほど見ておいて」。出たっ、バカンス!バカンスシーズンは、フランスの多くの機関の機能がぐんと低下する。仕方がない、これがフランスだ。無事に手続きが完了しただけでもヨシとしよう。(そう思わないと、フランスではやっていけない。)
私は、マダムに笑顔でお礼をいった。「よいバカンスを」と付け加えて。「どういたしまして。よい一日を!」。すっかり機嫌が直っていたマダムは、そう言って私を送り出してくれた。私は、ペランペランの薄い紙に再び目を通し、バッグに大切にしまった。これがあるから、私は今日から働けるんだ。ありがとう、薄い紙!あまりの嬉しさに、スキップしたいくらいの気持ちでみんなが待ってくれている職場へと急いだ。




